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不幸なことに房一の予測はあたつた。いや、それ以下とも云へた。
「はあ――ふむ、うちへもかね」
房一は熱心に愛想よく椅子をすゝめた。
「さうだつてねえ」
それに、茂子がこんな風にひよいと家を出て実家へ帰つたまゝ、十日も二十目ももどつて来ないなんてことは、別に珍らしいことでもなかつた。たゞ、この半年ばかりは落ちついていたのである。もう慣れつこになつている。そのうち又舞ひもどつて来るだらう。来なければ来ないで、それでもちつとも差支へはない。要するに、どうでもよかつた。居ない間が気楽といふものだつた。
「開業日はいつかの」
それは初めて口に出す言葉だつた。
「何かね、わしがどうしたといふんかね」
「徳さんが、――今、そこに、おかみさんが来てるんですわ」
「ねえ。――はやく。――患者ですわ」
「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」
男は面喰つて何を云はれているかはつきり判らないらしかつた。房一はその眼の中をしつかりとのぞきこみながらつゞけた。病院づとめの生活で、房一は患者の気持をのみこんでいた。たとへ病気がはつきりしなくても正直にありのまゝを云ふのは禁物だつた。病人は何か断定を欲するものだ。今の場合は別だが、十二指腸虫といふ名前さへろくに知らないこの男に、いきなりその病源を云つたところで疑はしく思ふのは明かだつた。
房一は目顔で笑ひながら何度もうなづいた。やつと安心したやうに、徳次はしばらく見送つていた後で、大股に自分の船の所へもどつて行つた。