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「ひどい傷だねえ!」
徳次は人の好い、いかにもさう信じこんだやうな眼で二人を眺めた。
房一は椅子から立ち上つた。
「なにしろこんな狭い田舎ぢやから、何事もねつうやる。それをやらんと後がうるさい。自然評判を落すといふことも起るかな」
「へえ。――ズブツとね」
かうして、びつくりするほど冴えた、明い日がやつて来た。いや、それは昨日も一昨日もその前も、かういふ日がつゞいていた。だのに、やはり、今日又新しく特別にとび切りにやつて来たとその度に思はせるほどの快い日だつた。どこもかしこも透き通るやうで、はつきりし、乾いた空気がふはりと頬のあたりに触れ、どこからかつんとする気持のいゝ山の匂がやつて来た。
自動車が動き出した時、練吉は唇のはしをびりびりさせ、あの切れ目の顔に何かしら水をかけられたやうな表情になりながら、
男は眼を閉ぢた。何も答へなかつた。
房一は面喰つて、ぽかんと口を開けた。
庄谷は自分よりは高い相手から見下されるのを避けるやうに少し遠のくと、房一の改まつた服装を胸から下にかけてぢろぢろと見た。
「いや、わしは出んぞ」と叫んだ。
「金色夜叉」はやはり小説であると、わたしは思った。
と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。